Instagram X tiktok YouTube
TOP > インタビュー一覧 > イラスト

里見佳音 東京都出身、神奈川県在住。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。広告代理店を経て、フリーランスのイラストレーター・デザイナーに。広告、WEB、書籍、絵本などで活動する他、キャラクターデザインも手掛けています。 ウェブサイト:kaoto-satomi.com インスタグラム:@kaotosatomi
コピックのブランドストア用のプロモーションイラストを担当していただいた里見佳音さんに、イラストレーターとして活動するまでの経緯やコピックを使い始めたきっかけについてお話しいただきました。

— 里見さんは現在フリーのイラストレーターとして活躍していらっしゃいますが、これまでの経歴について簡単に教えていただけますか?

美大でデザインについて学んだ後、広告代理店に入社しアートディレクター・CMプランナーとして2011年末まで勤務していました。その後、フリーランスのイラストレーターとして活動しています。

— 広告代理店に勤めていらっしゃったのですね。美術大学を卒業されているとのことですが、学生の頃からイラストレーターを志していたということではなかったのでしょうか。

絵を描くのは昔から好きでしたが、はじめからそれを仕事にしたいと思っていたわけではないんです。広告業界で働いていた父親の影響で、広告に携わる仕事がしたいと考え美大へ進学し、広告代理店に入社しました。広告代理店では企画したアイデアを制作会社などに外注して制作してもらうのが基本で、はじめは大きな案件に関われることが嬉しかったのですが、何か小さな物でも「自分が作った」という実感が段々欲しくなってきて、いつか自分が手を動かす仕事をしたいと考えるようになりました。 私にとって一番その実感を得られるのが昔から描いてきた「絵」だったので、何年か働いたころからイラストレーターという仕事は意識していましたね。たまに社内でイラストを頼まれるような仕事があったのも、イラストレーターとして独立するきっかけになったと思います。

— 意識しながらも働いていくなかで、フリーのイラストレーターに転身しようと思った大きなきっかけは何かあったのでしょうか?

ちょうどその頃に東日本の震災が起き、会社のなかでの働き方について考えることも多くなりました。もっと家族と一緒にいる時間を大事にしながら自身が手を動かす仕事がしたいと強く考えるようになって、思い切ってイラストレーターになることを決意しました。

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

絵本と、お仕事の作品より。混色と点描を重ねたて複雑な質感を作り出しています。 画像下はジャポニカ学習帳50周年記念「昆虫シリーズイラストノート」(全5種類)。虫が苦手な子でも使える、かわいい昆虫イラストを担当。ショウワノートから2020年8月末販売開始。

— 広告業界で活動されていたからこそ、その経験が今の仕事に活かされていることはありますか?

広告の企画・デザインに携わっていたこともあり、企業の広告、WEB、キャラクターデザインなどのお仕事のご依頼を受けることが多いですね。広告はクライアントが消費者に伝えたいことを届けることが大事なので、広告のなかで絵がメッセージを伝える邪魔をしてはいけないという意識をもって絵を描いています。「こういうイラストが欲しい」という注文を受けるだけではなく、「どういうイラストがこの広告に必要か?」というところからデザイナーやクライアントと一緒に考えさせて頂くこともあります。

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

コピックで塗ったトーンをデジタル編集して仕上げています。

— クライアントの方に寄り添って一緒に作品を作れるというのは強みですね!イラストレーターとして活動をはじめた時からコピックをメイン画材として使用されているのでしょうか?

そうですね。今まで色々な画材に触れてきましたが、昔から使い慣れているから、という理由でコピックを選びました。最初は「アクリル絵具で描いて」という注文を受けたらそれに応じて変えたりもしましたが、基本はコピックです。 デジタルならではの修正はできないのでやりにくいところはありますけど、自分にとってはいちばん使いやすいです。アナログ画材のなかでもアクリル絵具や水彩を使っているイラストレーターは結構いるけど、コピックを使っている人ってあまりいないなと思ったんですよね。個性が出せるかなと思って、コピックをメインの画材として使用しています。

— コピックを使い慣れている、とのことですが、里見さんはいつ頃からコピックを使い始めたのですか?

中学3年生のときに美術の授業で絵を描く課題があって、姉がたくさん持っていたコピック(クラシック)を手に取ったのがきっかけで使い始めました。絵の具だと混色が面倒だけど、キャップを開けてすぐ描けるというのがよかったんです。その課題の絵は好きだった風景写真を模写したんですが、空の色の広い面積を塗るときにどうしてもムラができてしまって、うまく塗れなくて悔しかった思い出があります。結局、重ね塗りをすることで無理やりムラをなくして……なんとか納得できる出来にしました(笑)。

— 決して悪いことではないのですが、コピックならではのムラは、初めて使う場合は驚きますよね。コピックの使い方は独学で上達していかれたのでしょうか。

そうですね、使い始めた頃はとにかく「ムラなく塗る」のを目標に、スーパーブラシをつかってひたすら素早く縦に線を引いて均一な線を塗り続ける練習をしました。それでも広い面積を納得できるまで綺麗に塗るのは難しいんだと理解したので、できてしまったムラを目立たなくする効果と、個性的な表現を狙って、一度塗った色の上からブラシで点描を打つように二度塗る方法を思いつきました。 ただ、いろんな人の絵を見るなかで偶然生まれるムラや滲みを生かす描き方の方が個性が出ると思ったので、今ではムラのない塗りにそこまでこだわっていないです。今も日々塗り方を研究中です。

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

スーパーブラシの先端を使い、点描をいくつも打つように重ね塗りをすることで質感を出すと同時に、色ムラを消してより綺麗に仕上げています。

— コピックを使うときのマイルールはありますか?

同じコピックを使い続けているとインクが少なくなったタイミングで色が変化することがあるので、なるべくバリオスインク(コピックインク)でまめに補充するようにしています。細かい部分を塗る時は(インクの出が悪くなってきたくらいの)インク残量が少ない方が塗りやすいので、どの色もインクが少ない状態のものとインクが多い状態のもの2本ずつを所持するようにしています。 あとは「綺麗に作ったムラ」と、「できてしまったムラ」の差に気を付けていますね。

— ほぼ全ての色をお持ちとのことですが、お気に入りの色はありますか?

G07YG17など、GとYGを交互に塗っていくような組み合わせが好きです。緑のグラデーションは綺麗に仕上がりやすい気がします。あとは青色も好きです。ちょっとくすんだような、B12B24B95とかですね。

— 本番を塗る前の色彩計画はされていますか?

しています。何も計画しないで本画を進めると、色で悩んで時間がかかってしまったりして失敗や描き直しも多くなってしまうので、ラフの段階で下絵をパソコンに取り込んでまずはデジタルでざっくりと着彩をしてみます。それを参考にして、コピックに置き換えて本番の色を塗っていきます。

— 原画をデータにするにあたり、デジタル処理はどのようにされていますか?

コピックで描いた絵ってスキャンすると塗りのテクスチャがかなりしっかりでてしまうので、フォトショップで調整しています。色味の変更というより、テクスチャを抑える感じですね。原画をモニターで見る時と、実際に印刷されたときではまた色の見え方が違ってくるので、あらかじめ印刷されることを意識して色を選んで塗っています。

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

イベント告知用に描かれた作品。すべてコピックで描かれています。

— ラフでも仕上げでも、うまくデジタル技術を取り入れられるとアナログ画材の自由度が上がりますよね。原画の色を調整することには特に抵抗はありませんか?

最初は少し気にしていたのですが、尊敬している有名なイラストレーターの方の原画展に行った時に、原画とその横に飾ってある成果物とで色の差が大きいことが気になって、その日偶然ご本人がいらっしゃっていたので、直接「原画とデータのもので全く違うのですが、かなり修正されているんですか?」と尋ねたことがあるんです。そうしたら「それはもう仕事に合わせてどんどん変えちゃう」と答えてくださって、そこで変な迷いはなくなりました。

— 案件ごとに様々なモチーフを描かれていますが、里見さん自身はどんな絵を描かれるのがお好きですか?

ミニチュアのような細かい絵やシンプルな形で構成した絵が好きで、頂く仕事に合わせて使い分けています。両方とも違う描き方ですが、見せ所をしっかり描き込むことと、デザインとしての見やすさをどちらも心がけています。今後自分らしさを追求していくなかで好きな絵も変化していくと思いますが、そのスタンスは変わらない気がします。

copic,コピック,里見佳音,イラストレーター,コピックイラスト,インタビュー

お仕事の作品より。クライアントの要望も押さえながら、イラスト全体が楽しめるよう、様々な所まで描き込まれています。

— 今回はコピックのブランドショップ用のイラストを描き下ろしていただきました。こちらのイラストも引きでも寄りで見ても楽しめるイラストですよね。

絵がプロモーション用の映像に使用されるとのことだったので、見る人が色んなところまで楽しんで見てもらえるように、見せ所の多い空間づくりを意識しました。動画になった時にどこが動くと面白いか、映像を思い浮かべて自分も楽しみながら描かせて頂きました。

— 描いている様子を撮影させていただきましたが、実サイズもとても小さくて驚きました。アナログ画材はやり直しがきかないと評価されることが多々ありますが、はみ出さないように塗るコツや対処法はありますか?

基本的にはみ出さないように、失敗しないように集中して気をつけて塗るのが前提ですが、それでもちょっとはみだしてしまったり、この絵(色)は気に入らないと思ったり、本番で失敗することもあります。ただ、納品する絵の仕上がりが良いことを優先するので、その部分だけ描き直してデータ上で切り貼りしたりもします。最終的にデータとして納品するものが違和感なく綺麗なものであればいいと考えているので、仕事の場合は1枚の原画としての仕上がりにはこだわらず、積極的に描き直しています。

— コピックも修正する方法があると知ると心強いですよね。では、最後に「コピックを使ってみたいけど難しそう」という方へ、何かアドバイスがあれば教えてください。

やっぱり「ムラなく塗るにはどうしたらいいですか?」という質問をよく受けるんですけど、ムラなく広い面積を塗るのは、誰に取っても難しいことだと思います。 でも、そのムラができるのがコピックならではの強みだとも思います。コピックのそれは水彩絵の具のような水が広がる滲みとも異なるものですよね。コピックはコピックならではの滲みやムラの表現ができるもの、と理解したうえで触ってみるのをおすすめします。

コピックのブランドストアのために描き下ろしていただいたイラスト。繊細な制作の様子がわかる動画もぜひご覧ください。※店頭モニターのサイズに合わせた幅広の動画になっております。

このページをシェアする
Lineに送る WeChatでシェア Pinterestに保存