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中垣ゆたか (なかがき ゆたか)
絵本作家、イラストレーター。1977年福岡県生まれ。東京都町田市在住。2005年からフリーイラストレーターとして活動を始め、その年に音楽雑誌よりデビュー。主な絵本に『ぎょうれつ』、『UFOのつくりかた』、『ひらいてびっくり! のりもの のりもの』(以上、偕成社)、『よーい、ドン!』(ほるぷ出版)、『さがしてみつけて なんじゃこりゃ!まつり』(ひさかたチャイルド)、『にんじゃなんにんじゃ』(赤ちゃんとママ社)、『宇宙オリンピック』(くもん出版)、『いろどろぼう』(金の星社)などがある。
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―絵本作家、イラストレーターとして活躍している中垣さんですが、これまでの経歴を教えてください。学生の頃から画業を目標として絵を描いていたのですか?

実は絵を本格的に描きはじめたのは28歳ごろで、仕事にしようと思って動き始めたのは周りに比べたら遅い方だったと思います。絵を描きはじめたきっかけなんですが、大学生の時に突然原因不明の病気になってしまって、大学にもほぼ通えずずっと自宅療養を余儀なくされる期間が長く続いたんですね。
ようやく身体が動くようになってきて何か仕事をしないと、と考えたときに、自宅療養中に長く親しんでいた映画とか音楽などに関わる絵なら描けるんじゃないかとふと思ったんです。
それで、好きな雑誌の編集部とか出版社の連絡先を片っ端からチェックして電話をして、絵を描かせてくださいと営業をかけはじめました。たまたま話を聞いてくれる方に巡り合って、そこから絵の持ち込みを始めました。

ーその行動力と、絵について特に学んだことがないということに驚きです。絵の持ち込みをしてから、イラストレーターとしての活動を始めるまでどのくらいかかりましたか?

持ち込みを始めてから半年くらいで、初めてお仕事をいただきました。
営業の電話をした時にたまたま拾ってくれた雑誌のデザイナーさんから「とにかくいっぱい絵を描いておこう」というアドバイスをもらって、ポートフォリオを作るためにもたくさん絵を描いていました。

ー 最初はイラストレーターとしてのお仕事が主だったとのことですが、絵本作家になるまではどのような流れがあったのでしょうか。

元々絵本にも興味があって、絵本業界に絵の持ち込みをしたこともあったんです。でも、自分自身が絵本とか本を作った経験もなかったですし、「君には難しいよ」と厳しく断られることもあり、なかなか難しかったんですよね。
でも、イラストレーターとして仕事を受けているうちに、福音館書店の「たくさんのふしぎ」の表紙を描かせていただける機会をいただけたんです。
絵本業界でも注目度の高い雑誌で、その表紙の絵を見た別の出版社の方から「絵本を描いてみませんか?」とお誘いいただけて、それが絵本デビューに繋がりました。

ー絵本制作を手がけてみた感想はいかがでしたか。

「こんな絵が描きたいです」と担当の方とお話しながら描き始めて、本編の絵を描きながらも「この話のオチどうしよう?」と話しあうという……今思えばかなりゆるい作り方でした。
絵本の作り方って会社とか人によって本当に様々で、毎回違うのでそれを知るときの面白さもあります。編集さんとの分業度合いとか、デザイナーさんが最後の方で参加することになったりとか。

ーイラストのお仕事の時とはかなり勝手が異なるのですね。

挿絵などのイラスト仕事の場合はリクエスト通りに絵を描くところまでで仕事が終わるので、実際にどんなふうに自分の描いた絵が使われるのかわからないことも多いんですけど、絵本の場合は最初から最後までずっと携われるのがいいなと思います。
編集さんとの付き合いも違って、イラストの場合だと長くて1ヶ月くらいの付き合いなんですけど、本を作るとなると半年~3年、長いと5年以上にわたり一緒に作品を作っていくことになります。気が合う編集さんとできると嬉しいし楽しいですね。

ー描きたいものをイメージされるとのことですが、特に描くのが好きなものはありますか?

人を描くのが好きですね。モノを描くより、人を描くほうが好きなんです。一番最初の仕事も人のイラストの仕事でしたし、思い入れもあるのかもしれません。

ーこちらのイラストはお仕事とは異なるものですか? こちらもすごい数の人が描かれていますね!

そうですね、これらは自己満足というか、息抜きに描いているものです。
仕事のイラストっていつも4案件ぐらいを同時進行でやっていくんですけど、煮詰まらないように仕事に関係ない絵も描いています。

ー絵本のアイデアはどのように形にしていくのですか?

とにかくわくわくできるような絵が描きたくて、自分が好きなものをテーマに「こんな絵が描きたい」というのを目標にして、そのためにストーリーを考えていく感じです。
例えば、新作の『人体ジェットコースター』では、人間の身体について描こうと決めた時に、目でギロッとにらまれているシーン、耳から出ていくシーン、食道から食べ物が落ちていくシーンは絶対に描きたいと思っていました。

ーコピックはいつから使用されているのですか?

小学生だった時に、絵を描いたら「中垣くんの絵は、線はいいけど色をつけるとダメになっちゃうね」みたいなことを言われたことがあってそれがすごくトラウマで、絵の具のように使う度に色を作らないといけない画材に元々苦手意識があったんです。
それで大人になってイラストの仕事をすることに決めてから、何を着彩に使うか迷ったんですが、試しに2、3本買ってみたコピックチャオがすごく使いやすかったんですよね。
いつでも安定して同じ色を使えるのが自分にすごく合っていて、キャップを開けたらすぐ描けるし10分でも20分でもあればその分たくさん絵を描きたかったので、よしこれでいこう! と決めました。それからはずっとコピックを使っています。

ーコピックの色で特にお好きな色、よく使う色があれば教えてください。

パキッと仕上げたいので、鮮やかな色が好きですね。
人を塗る時はE00ですが、緑色だとG05YG41YG06、赤色だと、真っ赤というより朱色っぽいr05が好きで、いわゆる黄色だとY06Y17が特に好きです。水色を使いたい時は最近はB00、青ならB24、木の色はE33。これらはいつもよく使う色ですね。

ープロの方は色数とインク量が多いコピックスケッチを使われる方が多い印象なのですが、中垣さんはコピックチャオを愛用されているのですね。

丸い方が手にフィットするし、キャップの色の部分が大きくて見やすいから気に入っています。
人の肌の色を塗るのによく使うE00に関してはコピックスケッチを持っていますし、チャオにない色を買い足すこともあるんですけど、基本的にチャオを愛用してます。

―細かい線が密に描かれているのが特徴的ですが、主線はマルチライナーを使われているのでしょうか。

0.03と0.05の太さのコピックマルチライナーを愛用しています。細かい線をたくさん引くので、マルチライナーは箱買いしていて、ペン芯がつぶれて少し太くなったら新しいのに変えて、太くなったものは細かすぎないところに使って、というふうにしています。

ー新作の『人体ジェットコースター』について、制作の裏話などあれば聞かせてください。

今回は線画が鉛筆なんです。ラフからもう一段階クオリティあげたようなものを最終的な線画にしていて、それをモノクロデータにして業務用のコピー機で印刷したものに色をつけていきました。
いつもはイラストボードにマルチライナーでペン入れしたものに着彩しているので、今回はコピー用紙に着彩したというのもあって新鮮でした。コピーしたものに着彩できるので、気に入らなくてもすぐにやりなおしできるという点がよかったです。

―着彩にかかる時間はどのくらいですか?

コピー用紙だからか、なんかいつもより早かった気がします。全ページで10日くらいで終わりました。事前にしっかり色の構成を練っていて、色の組み合わせをラフの段階で試しておくので色選びの迷いがないというのは大きいと思います。

ービビッドな色使いというか、実際の身体をイラストで表現するときにあまり使わなそうな明るい色が入っているのが面白いです。

内臓のシーンが多いので、実際の色そのままだと同じような色の印象のページが続いてしまうので、本全体としてメリハリを作るためにわざと意識的に色が派手なページを入れたりしました。
身体のなかを描くわけだから黄色とか青はどうなんだろう? ってちょっと迷ったりはしたんですけど、これはこれで絵本らしいし、絵も引き締まるし良かったと思います。

ー作画で大変だったり印象に残っているページはありますか?

胃のページとかは最初からイメージが固まっていたんですが、口から入ってくるシーンは後から追加しました。あとは描きあがった後に、形の変更や要素の追加などをしたくて、そこだけ新しく描いたものを印刷所さんにお願いして合成してもらったりというのは何回かしました。

ー原画と本を見比べてみると、かなり色が変わっているところがあるのがわかりますね。

改めて原画を見ると結構色が明るいなと思いますね。例えば、監修の先生に「動脈と静脈の血液の色の差を、もっとはっきり出したほうが良いです」とアドバイスをいただいて、酸素量の少ない静脈の血液の部分にマゼンタとシアンを足して紫っぽく強調したりもしました。
やっぱり(特色を使わない)4色印刷だと、原画の鮮やかさまではどうしても再現できないところがあるんですが、それはそれで原画を見たときに面白さを感じていただければと思います。


『人体ジェットコースター』原画展のお知らせ

『人体ジェットコースター』(ポプラ社)

2022年3月 3日~ 3月17日の間、青山ブックセンター本店にて、『人体ジェットコースター』の原画展が開催されます。
インタビュー内でも紹介していただいた『人体ジェットコースター』は、人間型アトラクションをジェットコースターがかけめぐる、驚きながらも楽しく身体のことを学べる絵本です。
原画の鮮やかさや線の緻密さを楽しむのはもちろん、原画と作品の色の違いなどにも注目してみてください。

原画展についての詳細はこちらをご確認ください。

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