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ウィスット・ポンニミット

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1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。バンコクでマンガ家としてデビュー。2009年『ヒーシーイットアクア』により文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞受賞。現在はバンコクを拠点にマンガ家・アーティストとして作品制作の傍ら、アニメーション制作・音楽活動など多方面で活躍する。主な作品に「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイット』シリーズ(ナナロク社)など。

あなたの経歴についてお聞かせください。

漫画を描きはじめたのは1999年からで、タイの雑誌に作品を寄稿していました。

2003年から2005年の間、日本語を勉強するために神戸に滞在していたのですが、関西ローカルの雑誌からオファーがあって、ちょっとした仕事をさせてもらえることになりました。誌面に小さなスペースをもらえたので、そこに収まるようなイラストを描くようになって、それで生まれたキャラクターがいまのマムアンなんです。

マムアンが誕生するきっかけはありますか?

きっかけは、自分じゃなくて他者に目を向けたからだと思います。というのも、1999年からオリジナルの「He She It」という作品のキャラクターをたくさん描いていました。この作品では自分自身や自分が考えていることにフォーカスしていました。でも2003年まで5年間描き続けて、その間ずっと自分のことばかり考えて描いていたので、他の人のことを考えるようにしたんです。そうしたら今まで関心がなかった人、特に好きでもなかった人に興味を持つようになりました。彼らは何を考えているんだろう?どんなことが好きなんだろう?って。

昔は、「この人つまらない」とか「この人はこういうところが好き」とか、そういう自分の基準で判断してましたけど、年を重ねると、彼らの行動にもなにか理由があるはずだ、と思うようになりました。その人を「悪人」と決めつけるのではなく、その人が良い人でなくても、自分とは違うんだ、と判断するようになった。もっと他者のことを気にかけるようにすれば、彼らが何を考えているか見えるようになるというわけです。

それで、いろいろなキャラクターを描いてみた中の一人がマムアンだったんです。キャラクターにはいろいろなタイプがありますよね。ミステリアスなキャラクター、笑えるキャラクター、善人、それに悪人みたいな。マムアンには特別なストーリーがあるわけでもなく、ただ笑って立っているだけの、シンプルな子なんです。

イラストを描くために5年間日本に滞在していたそうですが、そもそもなぜ日本に来ようと思ったのですか?

日本に来るきっかけになったのは「ドラえもん」です。我が家では、子供に経験を積ませるために母は兄を留学させていました。私も、短期留学でイギリスかアメリカの美術学校に行ってみようと思ってたんです。でも、もし本当に留学して学校に通うのであれば、その国で自分は何をすべきなのか?というのはよく考えていました。
例えば、アメリカに行ったとして、なんでアメリカに来たの?と聞かれたら、これといった答えが見つからず「ミッキーマウスが好きだから来ました」と答えるかもしれない。でも、心の中では、いや、本当はドラえもんの方が好きだなと思っていることに気づきました。本心でない留学のことを考えたとき、それが日本に行くという判断の決め手になったんだと思います。

若いころは、いつも親の理解を得られるような理由づけをしていました。親に満足してもらうためにヨーロッパが好きなフリをしたりして。でも、年を重ねて、ドラえもんが大好きなのは間違いないし、日本のアニメが好きなのも本当のことだよな、って自分のことを受け入れられるようになりました。

特に、日本のアニメに惹かれた理由はありますか?

子供のころ、どこの国のものでも問わずに多くのアニメをよく見ていました。そのなかでも日本のアニメって独特で、他の国のアニメだと、トムとジェリーのようにけんかして仕返しし合うという図が多くて、見ていくうちにこっちも攻撃的な気持ちになってしまって、鬱積した恨み、怒りを感じました。
でも、日本のアニメだと、けんかした後でも友達になるということがよっくあります。視聴者としては、恨み続けるのではなく、お互いを尊重して助け合うのがカッコイイなという感情が沸き上がるんです。だから、西洋のアニメより、優しさや尊敬を感じられる日本のアニメのほうが好きでした。

アーティストであること、そして作品を創ることへのモチベーションは何ですか?

日々の生活から何かを学ぶ、ということを意識しています。例えば、物事をうわべだけで見ないということ。餃子って一見おいしそうに見えないけれど、食べてみるとおいしい、とか。だから、見た目で判断してはいけないと学びます。私は何かを学ぶと、それを「記録」したくなるんです。そういった学びを記録するために漫画を描いています。

最初の頃は、もっとストーリー性がある漫画を描いていました。キャリア初期には物語を伝えるために漫画を描いていましたが、今は一コマ漫画だったり、ストーリーにこだわらないものを描くようになりました。
私のインスタグラムを見ていただけるとわかるのですが、作品を一つずつ投稿しています。つまり、生活の中で学んだことを漫画や文章に変換しているんです。

「記録」するのは、読者に「こんなことがあったよ」と伝えたいからです。もし、私と同じような問題に直面した人がいたら、私の作品を読んでも時間を無駄にすることはないと思うんです。もし作品を読んでくれていたら、もっと早く先に進めるかもしれない。それっていいことじゃないかなと思います。

マムアンは単なるイラストではありません。あなたはいつも短い、意味深い言葉を添えていますが、これはどのような理由があってのことなのでしょうか?

実際のところ、絵を見てもらいたいわけじゃなくて、私が人生で学んだことを伝えたいんです。私の場合は、自分は絵がうまいと言いたいわけでも、絵のうまさをアピールするために描いているわけでもない。でも、自分が学んだことを伝えたい。私はそういう人間なんです。でも文章だけだとわかりにくいので、わかりやすくメッセージを伝えやすくするために絵を描いているんです。

この世には数多くの人気キャラクターが存在していますが、マムアンが世界中にファンのいるキャラクターに成長した理由があれば教えてください。

推測ですが、たぶん第一の理由はメッセージなんじゃないかな。私のメッセージでは、みんながやったことあるような、経験をしたことがあるようなことを書いているので、共感してもらいやすいです。2つ目は、SNSに投稿しているのですぐに拡散されやすいことですかね。

また、皆さんが私の絵を繰り返し見てキャラクターを覚えてくれるんです。別のキャラでも描き続ければ、いずれは認知されるかもしれないですね。SNSには、そういうわかりやすいメッセージ力がありますからね。

コピックで好きな色は何ですか?あなたの好きな色調やカラーグループを教えていただけますか?

私がよく使う色はE21(肌の彩色に使用)とR00です。このへんの色は柔らかくてきれいなので好きです。

あとはYR000や、E71みたいな変わった色もいいんですよね、ちょっと紫がかったやつ。でも本当にその時々によりますね。他の色に惹かれちゃう時もあります。

前述したとおり、私の目的はメッセージを伝えることなんです。濃かったり鮮やかな強い色だと、色の主張が強すぎて絵に込めたメッセージが色に引きずられてしまうので、絵をコントロールするために淡い色をよく使っています。

コピックを使いはじめたきっかけは何ですか?

もともとは水彩を使っていたんです。でも仕事が増えて締め切りが厳しくなってくると、焦ってしまって(準備や乾くのを待つ必要がある)水彩で描くのが難しくなっちゃったんです。もっと楽しく絵を描きたいという気持ちになって、それなら手早く作品を仕上げられる画材を見つけようとなったわけです。そのほうが気持ちよく作業できるし、そもそも私の目的はアートを通して人生で学んだことを伝えることですから。

コピックを知ったとき、まず簡単に素早く描けるのが気に入りました。ストレスにならないし、面倒くさくないし、洗わなくていいし。作品を提出するときにはもうしっかり乾いていて、スキャンしてもキレイに仕上がるんです。水彩よりも印刷に向いてますね。水彩の混色は難しくて、私は苦手なんです。それらがコピックを愛用している理由です。

コピックが仕事の役に立っているのでしたら私たちも嬉しく思います。

コピックのおかげで仕事がはかどるようになりました。仕事が早くなればなるほど経験値も上がりますし、結果的に作品をもっと早く広めることができるんです。


コピックファン、そしてファンの方に向けて一言お願いします。

私は紙とペンを使って絵を描いてます。パソコンでもタブレットでもなく、紙に描いていると楽しいし、落ち着くし、集中できます。それに電気とかを使う必要もない。今の時代はパソコンとかインターネットとかばっかりだけど、地球につながっていることを忘れずに、それを大切にしている気持ちが皆に届いたら嬉しいです。電気を消して、土の上に立って、空気を吸って、紙を触って絵を見て、文字を読んで、幸せになってください。そしてコピックを楽しみましょう。

いまだに紙に描いている皆さんには、自信と喜びと誇りをもってほしいですね。私たちは電気と共存する必要はないと思います。紙に絵を描いて、充電の心配をする必要のない生活。それは次世代の人たちには理解できないかもしれない、幸せなことなんです。あなたが紙に絵を描いて幸せなら、私も幸せだし、これからも自信を持って続けてほしいです。

(アーティストとして憧れてくれる方もいますが)私みたいにならなくてもいいんです。自分らしくいるほうがずっといいです。私より絵が上手な人ならタイでも海外でもたくさんいますしね。

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